肉の摂取量の多い日本人男性は死亡リスクが高く、一方で女性は脳血管死が少ない
肉類の摂取量が多い男性は死亡(全死亡や心血管死)のリスクが有意に高いことが、日本人対象の研究から明らかになった。国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)のデータを解析した結果であり、「PLOS ONE」に論文掲載されるとともに、国立がん研究センター予防研究グループのサイトにニュースリリースが掲載された。
日本人の肉類摂取量の増加は脳卒中の減少に貢献してきたが......
JPHC研究は、生活習慣と、癌・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究。
平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内に居住していた45~74歳の住民うち、食事調査アンケートに回答した男女約9万人を平成23年(2011年)まで追跡した調査結果に基づき、肉類摂取と死亡リスクとの関連を調査した。
日本では食生活の欧米化により1970年から2006年までの間に肉類の摂取量が約2倍に増加したとされている。このような変化、つまり肉類摂取による動物性脂肪や蛋白質の摂取が、1960年代以降の日本人の脳卒中減少に貢献したとされている。その一方で欧米諸国では、赤肉や加工肉の過剰摂取による種々の疾病リスクの増加が報告されている。
しかし、肉類摂取と死亡リスクに関する日本からの研究報告はこれまでのところ少なく、また結果が一致しておらず、明確な結論は得られていなかった。
肉類の摂取量が最も多い群の男性は、全死亡リスクと心疾患死亡リスクが上昇
今回の研究では、調査開始時に行った食事アンケートの結果を用いて、肉類の総量や赤肉(牛・豚)・加工肉(ハム・ソーセージ等)・鶏肉の1日あたりの摂取量を四分位に群分けし、第1四分位群(摂取量が最も少ない群)と比較して、その他の群の死亡リスクを比較した。解析に際しては、年齢、地域、喫煙、飲酒、身体活動、肥満度、糖尿病・高血圧症の既往、総エネルギー摂取量、総脂肪摂取量、野菜・果物・魚・乳製品・卵・食塩の摂取量を、結果に影響しないように統計学的に調整した。
その結果、男性において、肉類全体の摂取量が最も多い第4四分位群は、摂取量が最も少ない第1四分位群に比較して、全死亡リスクが有意に上昇していたことがわかった(図1)。肉の種別に比較した場合においても、赤肉では第4四分位群で全死亡リスクが有意に上昇していた。
一方、女性においては肉類摂取による全死亡リスクとの関連はみられなかった。
図1 肉類全体および赤肉の摂取量と総死亡リスクの関連
死因別では、男性の心血管死のリスク上昇、女性の脳血管死のリスク低下と関連
続いて、肉類摂取と死因別死亡との関連を検討したところ、男性では肉類全体および赤肉の摂取量の第1四分位群に比較し第4四分位群は、心疾患死の死亡リスクが有意に上昇していた (図2)。一方、鶏肉の摂取量の第4四分位群は、癌死の有意なリスク低下が認められた。
女性では、肉類全体および赤肉の摂取量が最多の第4四分位群で、脳血管疾患の死亡リスクが有意に低下していた。
図2 肉類摂取量と死因別死亡リスクとの関連
男性は肉類摂取量はそろそろ過剰域? 女性はまだ少ない?
今回の研究から、男性では、肉類全体および赤肉の摂取量が最も多い第4四分位群で、総死亡および心疾患死亡リスクが高くなっていた。この結果は、これまでの欧米や中国からの疫学研究をまとめたメタ解析において、赤肉の摂取量が多いと総死亡リスクが高いことが報告されている結果と一致する。これまでの研究でも、肉類に多く含まれる飽和脂肪酸を多く摂取すると心疾患のリスクが増加することが報告されていることから、本研究でも同様の関連がみられたと考えられる。
一方、鶏肉の摂取量が多いことと、男性の癌による死亡リスク低下との関連がみられたが、メカニズムはよくわかっておらず、さらなる研究が必要。
女性では、肉類全体および赤肉の摂取量の多いグループで、脳血管疾患死亡リスクの低下と関連がみられた。肉類は主要な蛋白源であり、適量の蛋白質摂取は血圧を適正に保ち、脳卒中を予防すると報告されている。さらに女性は男性に比べ、肉類全体の摂取量が少ないため、過剰摂取の影響が表れにくいと考えられた。
今回の研究の限界として、肉類の摂取量を1回のアンケート調査のみで計算していて、追跡中の食事の変化については考慮していないことなどが挙げられる。
関連情報
多目的コホート研究(JPHC研究)「肉類摂取と死亡リスクとの関連」(国立がん研究センター予防研究グループ)
文献情報
原題のタイトルは、「Association between meat intake and mortality due to all-cause and major causes of death in a Japanese population」。〔PLoS One. 2020 Dec 15;15(12):e0244007〕
原文はこちら(PLOS)