2型糖尿病患者への栄養指導の成果を「費用対効果」で検証したスコーピングレビュー
2型糖尿病患者に対する栄養士による栄養指導の成果を、「費用対効果」の視点で検討したスコーピングレビューの結果が報告された。栄養士による介入は費用対効果が高く、労働者の欠勤やプレゼンティズムの抑制につながっていることが確認された。
糖尿病治療に効果があることは確かだが、ハードルもある食事療法
世界的に2型糖尿病が蔓延し、多大な人的・社会的・経済的コストをもたらしている。2015年時点で糖尿病の世界的な経済的負担は1.3兆ドルと推定されており、これは世界各国の国内総生産額の合計の1.8%に相当する。
一方、2型糖尿病は、健康的な食事をとり、身体活動を積極的に行うという生活習慣により病態が改善し、寛解に至ることも少なくない。食事療法と運動療法はインスリン感受性を高め、糖尿病の特徴である高血糖だけでなく、病態の基盤にあることのある肥満をも相乗的に改善する。
このように2型糖尿病の予防と治療にとって食事療法は重要であるが、個人が食生活を変えることは困難を伴う。食材に関する知識や調理方法などを習得し、それを維持・継続するモチベーションを保ち続ける必要がある。このような局面に対し、栄養士はカウンセリングを含め患者に必要な情報を伝え指導する専門的スキルを有しており、血糖コントロールのみならず、併発していることの多い脂質異常症、高血圧、肥満などの他の危険因子の管理を最適化する食生活を提案することができる。
既報からは、栄養士による栄養指導は他の医療職者による場合よりも血糖や減量効果が大きく、1回の介入でさえHbA1cの改善につながる可能性が示されている。しかし実臨床では栄養士の指導を受ける機会の得られない患者が多く、医師からの指導を好む患者も存在する。また近年、医療領域において費用対効果が重視されるが、栄養士による栄養介入の効果をコストの面から検証した研究のレビューは行われていない。
このような背景のもと、本論文の著者らは、2型糖尿病患者に対する栄養士による栄養指導の費用対効果に関する研究のスコーピングレビューを実施した。なお、スコーピングレビューとは、まだ十分な研究が行われておらず、システマティックレビューを実施する状況に至っていないテーマについて、情報の整理や課題の抽出を目的とするレビューのこと。
13件のデータベースなどから、4件の研究論文を抽出
MEDLINE、EMBASE、CINAHLなどの13件の科学文献データベース、および世界保健機関(WHO)や国際臨床試験レジストリ、政府機関などの公的Webサイトを用いて、2008年から現在に至るまでに発行された査読論文、レポート、ガイドライン、その他の文献を検索した。3,540件の記録がヒットし、重複しているもの、費用対効果を検証していないもの、栄養士による介入かどうかが不確かなものなどを除外し、最終的に4件の研究論文が抽出された。
抽出された研究の特性
4件の研究はすべて外来2型糖尿病患者を対象に行われていた。2件はランダム化対照試験(RCT)、うち1件はクラスターランダム化されており、他の2件は後ろ向きコホート研究だった。研究が行われた国は、3件が米国で1件はオーストラリアだった。
これら4件に、成人2型糖尿病患者が合計2万2,765人含まれていた。対象者の平均年齢は、3件は50代(56歳、58.2歳、53歳)で、他の1件は記載がなく不明。2件の研究対象は大半が白人であり、1件はアフリカ系アメリカ人、他の1件は記載がなく不明。3件の研究は女性の割合が6割前後と男性より若干多く(61%、57%、60%)、他の1件は男性と女性がほぼ半数だった(男性53.5%)。
追跡期間は3件が12カ月で、他の1件は4年8カ月。介入方法については、1件の研究では18回の電話カウンセリング、他の1件は最低1回以上の講義であり、他の2件は詳細な内容の記載がなかった。
栄養士による栄養介入の経済的成果
栄養士による介入による効果は、医療費の直接コスト、間接コスト、労働者の欠勤、プレゼンティズムなどによって経済的影響が検証されていた。なお、プレゼンティズムとは、疾病を抱えながら無理に就業し、労働生産性が低下している状態のこと。
4件の研究報告の概略は以下のとおり。
糖尿病医療費は抑制されるが総医療費は増加との報告
2014年に米国から報告された研究は、総医療費と糖尿病関連医療費への影響を検証していた。糖尿病の医療費には、投薬、内分泌専門医の診察、消耗品(血糖測定、インスリン注入関連機器)などが含まれている。追跡期間12カ月で、糖尿病関連医療費が患者1人あたり2,335ドル抑制された(p=0.002)。ただし総医療費は、6,369ドル高かった(p<0.001)。
QALYで検討した費用対効果は優れるとの報告
2009年にオーストラリアから報告された研究は、開業医やその他の医療機関への受診、入院、外来通院のための費用、健康上のメリットなどを評価し、12カ月の介入による結果を 10年に外挿してデータを示したもの。電話による食事療法と身体活動のカウンセリングで、1QALYごとに2万9,375ドルのコストが発生し、これは通常のケアにより1QALYごとに7万8,489ドル発生するのに比較し、費用対効果が高かった。
なお、QALYは「Quality-adjusted life year」の略で、医療の費用対効果の比較検討に用いられる指標。邦訳では「質調整生存年」などとされる。1QALYは、完全に健康な1年間を意味する。
約5年で1万4,000ドルの入院医療費を抑制
2008年に米国から報告された研究は、平均追跡期間4.7年で発生した全入院医療費を検討したもので、栄養介入による入院費は1万3,872ドル(95%CI:7,799~1万9,945ドル,p<0.001)抑制されていた。栄養指導1回あたり入院費6,503ドル(95%CI:3,421~9,586ドル,p<0.001)の低下と関連していた。
欠勤やプレゼンティズムを有意に抑制
2009年に米国から報告された研究は、12カ月間に発生した欠勤やプレゼンティズムを検討したもの。栄養士による介入は欠勤64.3%(3.49 vs 0.92日,p=0.01)、プレゼンティズム87.2%(5.3 vs 0.94日,p=0.001)の抑制につながっていた。
欠勤やプレゼンティズムの減少は、労働生産性の向上を介して費用対効果を間接的に押し上げる。これらの調査結果から著者らは結論として、「2型糖尿病による経済的負担を軽減するうえでの栄養指導の重要性が確認された。費用対効果に影響を及ぼす因子を明確にし、結果の一般化を可能にするために、さらなる研究が必要」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Cost effectiveness of dietitian-led nutrition therapy for people with type 2 diabetes mellitus: a scoping review」。〔J Hum Nutr Diet. 2020 Oct 14〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)