女性アスリートも運動負荷時には、男性と同様のテストステロン反応が生じる
高強度の運動負荷時の女性のテストステロン分泌動態に関する研究結果が報告された。運動直後から回復初期には上昇し、回復後期には運動前値よりも低下するという分泌パターンが示された。著者らは「性別による分泌レベルの違いはあるものの、この反応は男性にみられる分泌パターンと同じである」とまとめている。
研究の背景:女性アスリートのテストステロン値に関する知見は限られている
テストステロンは一般に「男性ホルモン」と呼ばれるものの、実際には女性においても同化ホルモンとしてさまざまな作用をもち、骨格筋や赤血球の維持等に重要。とくにスポーツ領域では、トレーニングによる筋肥大との関連の研究が進んでいる。しかしそれらの大半は、古くから男性を対象に研究されてきたものだ。アスリートに占める女性の割合は、それらの研究が本格的に開始されてから現在に至るまでの間に格段に増加したにもかかわらず、女性アスリートのテストステロンレベルに関する知見は限られている。
今回紹介する研究は、競技会レベルの負荷を模倣した高強度かつ長時間の持久力スポーツを女性が行った際の、テストステロン分泌動態を検討したもの。
研究方法:100%VTで疲労困憊まで負荷し、24時間後まで経過を観察
この検討の対象は、年齢が18~26歳の範囲で、経口避妊薬を使用していない健康な女性10名。日常的にトレーニングを行っている長距離ランナーまたはトライアスリートであり、少なくとも2年間、週5日、1日30分間以上のトレーニングを行っていることを条件とした。研究開始前2~3カ月間の基礎体温をもとに月経周期を確認し、卵胞期の初期に、後述の試験を行った。
対象者の年齢は23.5±2.1歳、身長165.7±6.2cm、体重59.8±3.8kg、体脂肪率19.4±3.7%、トレーニング歴6.5±3.1年、VO2max3.18±0.22L/分、体重あたりVO2max56.2±2.7mL/kg/分であり、換気性閾値(Ventilatory Threshold;VT)でのVO2(VO2 at VT)は2.39±0.27L/分で、VTでのVO2/VO2max比は76.2±6.2%。
テストステロン測定の24時間前からは激しい運動とアルコール摂取を禁止し、12時間前からはカフェインの摂取を禁止。また3日前からは炭水化物エネルギー比60%以上の食事をとるように指示した。
運動負荷は、トレッドミルによるランニングを各被験者の100%VT(±5%以内)の負荷で、疲労困憊に至るまで続けた。また運動負荷中は、競技に参加している状況に近い環境をシミュレートするため、周囲から声掛けを行った。なお、水分は自由に摂取可とした。
採血は、運動負荷前、負荷終了直後、負荷終了30分、60分、90分後、および24時間後に行った。
検討結果:負荷からの回復初期には上昇し、24時間後には低下
被検者の運動負荷中の平均速度は12.0±0.2km/時で、疲労困憊に至るまでの時間は75.1±7.0分だった。運動負荷終了時において、心拍数は177.3±3.5bpm、自覚的運動強度(Rate of Perceived Exertion;RPE)は15.8±0.6(Borg Scale)で、VO2は2.36±0.08L/分であり、これはVTの98.8±2.4%に相当する。
運動負荷前から負荷終了24時間までのテストステロン関連指標について、負荷前値から有意な変化がみられた項目を抽出すると、以下のとおり。
- 総テストステロン(ng/dL)
- 負荷前が17.7±2.2で、負荷直後が27.6±3.2(p<0.05,効果量1.04)、24時間後に13.9±2.0(p<0.05,効果量0.52)。30、60、90分値は負荷前値と有意差なし。
- フリーテストステロン(ng/dL)
- 負荷前が0.212±0.023で、負荷直後が0.289±0.017(p<0.05,効果量1.10)、24時間後に0.146±0.031(p<0.05,効果量0.70)。30、60、90分値は負荷前値と有意差なし。
- 生理学的意義のあるテストステロン(Bioavailable T.ng/dL)
- 負荷前が4.62±0.31で、負荷直後が6.92±0.51(p<0.05,効果量1.58)、24時間後に3.81±0.29(p<0.05,効果量0.78)。30、60、90分値は負荷前値と有意差なし。
- 性ホルモン結合グロブリン (Sex Hormone-Binding Globulin;SHBG.nmol/L)
- 負荷前が62.1±5.1で、負荷直後が72.1±3.1(p<0.05,効果量0.69)。30、60、90分値、および24時間後の値は負荷前値と有意差なし。
- アルブミン(g/dL)
- 負荷前が4.0±0.3で、負荷直後が4.7±0.2 (p<0.05,効果量0.79)。30、60、90分値、および24時間後の値は負荷前値と有意差なし。
まとめると、テストステロンは運動負荷によって有意に上昇し、負荷終了から30分後には負荷前値と同レベルに低下、そして24時間後には負荷前値よりも有意に低いという変動が観察された。
運動によって女性も男性と同様にテストステロン分泌が変化する
この結果について、著者らが「最も興味深い発見」としているのは、運動負荷終了24時間後に、負荷前値よりもテストステロンレベルが低下するという点だ。このメカニズムは本検討からはわからないが、運動負荷によって生じた急激なホルモン分必に続くフィードバックによる抑制や、ストレス応答などによるものではないかと考察している。
著者らによると、女性のテストステロン動態を検討した研究はこれまでにも散見されるが、変動の大きさを解析対象数の影響を受けない効果量も用いて検討したのは今回の研究が初めてであり、結果の堅牢性がより高いと述べている。
結論としては、「トレーニングを受けた女性において、徹底的な持久力運動後のテストステロン値は、回復期の初期には上昇し、その後24時間時点では減少していることがわかった。この変動は、性別による絶対値の違いはあるものの、男性に見られる変動と同じと言える」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Testosterone Responses to Intensive, Prolonged Endurance Exercise in Women」。〔Endocrines. 2020 Dec;1(2):119-124〕
原文はこちら(MDPI)