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低炭水化物食で運動による代謝改善効果が減弱する可能性 健常女性での検討

低炭水化物食の運動効果への影響を検討

メタボリックシンドロームや2型糖尿病患者では低炭水化物食が糖代謝改善に一定の効果が認められ、近年では健常者の減量や適正体重維持目的でも行われることが増えている。しかし低炭水化物食の健康増進効果または副作用の評価は定まっていない。また、代謝改善のために行われる運動と低炭水化物食を併用した場合に、健康への影響は相加的なのか、または相殺するのかはほとんど知られていない。

低炭水化物食で運動による代謝改善効果が減弱する可能性 健常女性での検討

研究デザイン

この点を明らかにする目的で行われた本研究に、ノルウェーの栄養学生ボランティア23名が応募した。喫煙者、妊娠中、家族性心血管疾患、糖尿病、やせまたは過体重(BMI18.5未満または25以上)、心肺フィットネス高値(VO2peak57mL/kg/分以上)を除外し、17名が以下の介入試験を終了した。

被験者に対し、3週間の低炭水化物高脂肪食の食事介入を行った。検討した項目は、経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose tolerance test;OGTT)を含む血液検査、体重、生体インピーダンス法による体組成、VO2peak、心拍数、血管内皮機能(flow mediated dilation;FMD)など。OGTTは被験者の月経周期に合わせ、介入前後の黄体期の同じ時期に行った。

被験者に対し、介入前の第1日目の午後に最初のOGTTを施行。その後、10分間のウォームアップに続いて最大心拍数の75〜80%の強度で60分間の運動を行い、翌日の午前中に2回目のOGTTを施行した。そして3週間の食事介入後、再び前記と同様に2回のOGTTを行った。

介入中の食事

生体インピーダンス法(タニタ社)で推定された基礎代謝率に身体活動レベルに従って計算された活動係数を掛け、毎日のエネルギー所要量を計算した。介入中の食事の栄養バランスは、脂肪75%、蛋白質20%、炭水化物5%と指示された。食事の準備は被験者自身によって行った。

連日、身体活動および食品とエネルギー摂取量が記録され、介入期間中の毎晩、研究者がモニターし、必要に応じてエネルギー要件等を調整した。このようなデザインの結果、被験者の介入直前の食事は、脂肪16%、蛋白質27%、炭水化物57%だったが、介入最終日の食事は脂肪75%、蛋白質24%、炭水化物1%であり、設定条件に見合ったエネルギーバランスになっていた。

介入前後での変化

体重および体組成等

結果について、まず介入前後での体重・体組成等の変化をみてみよう。

被験者の平均年齢は23.5±0.5歳、BMIは介入前が21.0±0.4だった。介入中のエネルギー摂取量は、基礎代謝率(basal metabolic rate;BMR)や身体活動レベル(physical activity level;PAL)に従って調整していたにもかかわらず、体重は介入前58.8±1.4kgから介入後56.9±1.3kgに減少していた(p<0.001)。BMIも20.3±0.4へ有意に低下していた(p<0.001)。

生体インピーダンス測定により、体重の減少は主に、総水分量の減少(33.4±0.8kgから32.0±0.7kg,p<0.001)、および除脂肪体重の減少(45.2±1kgから44.1±0.9kg,p=0.003)によるものと考えられた。

なお、介入終了から7日時点では、体重と体組成はベースライン値に戻っていた。

介入中の食事とエネルギー消費

介入前は、摂取エネルギー量に占める炭水化物の比が45±2%だったが、介入中は3±0%に減少した(p<0.001)。

脂肪は35±2%から78±1%に増加した(p<0.001)。このうち飽和脂肪酸は10±1%から30±1%へ(p<0.001)、一価不飽和脂肪酸は9±1%から28±1%(p<0.001)、多価不飽和脂肪酸は6±1%から11±1%(p<0.001)へそれぞれ増加した。蛋白質は介入前が20±2%、介入中19±1%で有意な変化はなかった。

摂取エネルギー量は介入前2,137±48kcal、介入中2,186±44kcal、消費エネルギー量は同順に2,177±59kcal、2,201±63kcalで、いずれも有意な変化はなかった。

尿ケトン体測定により介入開始後3日目から22日目まで、ケトーシスが観察された。

耐糖能への影響

介入前において空腹時血糖値は4.7±0.1mmol/L(85mg/dL)であり、運動負荷翌日は4.4 ±0.1mmol/L(79mg/dL)に低下した(p<0.001)。OGTTによる血糖変動の曲線下面積(AUC)は739±41mmol/L・120分から661±25mmol/L・120分へ低下し(p=0.008)、運動負荷の効果がみられた。

介入後の空腹時血糖値は4.4 mmol/L(79mg/dL)で介入前より有意に低下していた。ただし運動負荷前と翌日の空腹時血糖値に有意な変化が認められなくなった。OGTTによる血糖値AUCは789±43mmol/L・120分から889±40mmol/L・120分へと有意に増加し(p=0.001)、耐糖能の低下が認められた。

インスリン値のAUCは変化がなかった。また、インスリン感受性の指標であるHOMA-IRやMatsuda Indexには変化がみられなかった。

脂質代謝への影響

総コレステロールは介入前4.4±0.2mmol/L(170mg/dL)、介入後5.6±1.7mmol/L(217mg/dL)で、以下同順に、LDL-C2.3±0.1mmol/L(89mg/dL)、3.2±1.2mmol/L(124mg/dL)、HDL-C1.8±0.1mmol/L(70mg/dL)、2.0±0.1mmol/L(77mg/dL)、TG0.68±0.06mmol/L(60mg/dL)、0.82±0.05mmol/L(73mg/dL)、LDL-C/HDL-C比(L/H比)1.36±0.11、1.64±0.13であり、いずれも介入前に比べ介入後に有意な上昇がみられた。

HDL-Cのわずかな上昇に比べてLDL-Cはより顕著に上昇したため、L/H比は高くなり、HDL-C増加のメリットは相殺され、ネガティブなプロファイルとなった。

VO2peak、最大心拍数、呼吸交換比(RER)、血管内皮機能(FMD)への影響

VO2peakは介入前43.7±1.3mL/kg/分、介入後44.6±1.3mL/kg/分で有意な変化はなく、最大心拍数も同順に182±2/分、184±2/分、FMD10.7±1.1%、13.3±1.0で有意な変化はなかった。

呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)は、介入前、約170ワットで1に到達したが介入後は有意に低下した。

その他のパラメーターの変化

炎症や免疫活性を表すと考えられる可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(soluble urokinase-type plasminogen activator receptor;suPAR)は、2.38±0.06ng/mLから2.22±0.07ng/mLへ有意に低下した。

遊離脂肪酸(free fatty acid;FFA)やケトン体の一種であるD-3-ヒドロキシ酪酸(3-hydroxybutyric acid;3-OHB)は、介入前後で有意な変化はなかった。

健康で標準体重の女性に低炭水化物食は推奨されない

これら一連の結果のまとめとして、著者らは以下のような結論を述べている。

78%の脂肪を含む低炭水化物高脂肪食は、空腹時血糖値を著しく低下させた。一方、空腹時インスリン値や糖負荷後AUCには影響しなかった。総コレステロール、L/H比は大幅に増加した。

低炭水化物高脂肪食によって代謝の柔軟性が失われた可能性が高く、介入前にみられた耐糖能に対する運動のプラスの効果は、介入後に減弱していた。脂質代謝のネガティブな変化をあわせて考慮すると、低炭水化物高脂肪食は、健康な標準体重の女性には推奨されるべきではないことが示唆される。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of a Low-Carbohydrate High-Fat Diet and a Single Bout of Exercise on Glucose Tolerance, Lipid Profile and Endothelial Function in Normal Weight Young Healthy Females」。〔Front Physiol. 2019 Dec 19;10:1499〕

原文はこちらFrontiers Media

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