減塩施策の推進で高血圧患者数・医療費はどう変わる? 2040年までのシミュレーション
食塩含有量の多い食品を減らし、食塩摂取量の多い人を減らすことによる、高血圧患者数や高血圧医療費への影響をシミュレーションした結果が報告された。人口減少の影響も加わるため患者数や医療費は今後減少していくと予測されるが、より強力な減塩施策の推進によってそのスピードの加速も見込めるという。聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科の西信雄氏らの研究によるもので、論文が「Nutrients」に掲載された。

より一層の減塩に向けた個人と社会の取り組みの推進
食塩の摂りすぎが血圧を高め、心血管疾患・腎疾患のリスクを高めることは広く知られている。それにもかかわらず、近年の日本人の食塩摂取量はほぼ横ばいであり、高血圧の有病率も高止まりしている。
個人へ減塩を呼び掛けるという従来型の公衆衛生施策が行き詰まっている現状において、世の中に流通している食品の食塩含有量を減らすという社会的な取り組みの必要性が指摘されるようになってきており、減塩調味料などが徐々に増えてきている。このような変化を背景に西氏らは、このような取り組みが将来的に高血圧患者数や高血圧医療費へどのような影響を与えるかシミュレーションした。
減塩施策を3倍速で進めると、2040年に食塩摂取量6.9gも視野に
シミュレーションには、2012~23年の「国民健康・栄養調査」や、高血圧有病率が高い40~79歳の人口の推移、外来医療費などのデータを用いた。
2012年時点の食塩摂取量、食塩含有量が多い食品、患者数、医療費
2012年の40~79歳の人口は男性3,160万人、女性3,320万人、食塩摂取量は10.1gだった。世の中に流通している食品の点数を1,000品目と仮定し、そのうちの10%(100品目)が、食塩含有量の少ない食品、その他の90%(900品目)を食塩含有量の多い食品と位置づけたうえで、2012年の国民1人あたりの食塩摂取量が10.4±4.2gと報告されていることから、食塩含有量の少ない食品は1日量として食塩含有量が6gのもの、食塩含有量の多い食品は同14gのものと仮定した。なお、40~79歳の人口のうち48.7%は食塩摂取量が比較的少ない群であり、10万人あたり5万1,313人が食塩摂取量の多い群と推定された。
2012年の高血圧有病者数は、男性1,460万人、女性1,050万人であり、外来医療費は同順に5,319億円、5,078億円だった。なお、後述の外来医療費の変化の予測に際しては、患者あたりのコストが2012~19年と同等の水準で推移するものとして算出した。また、高血圧の合併症として生じる心腎疾患などの医療費は含めずに算出した。
食塩含有量が多い食品から少ない食品への切り替えの推進、患者数の減少のシナリオ
各種のデータを参照した検討により、世の中に流通している食品の食塩含有量が年に4%の係数で低下し、食塩摂取量の多い人が年に7.86%の係数で減少すると推測された。この推測に人口の減少や移動を加味し、2026年、および2040年には以下のように変化すると予測された。
2026年
- 食塩含有量の多い食品
- 676品目
- 食塩摂取量の多い人
- 4万5,415人(40~79歳10万人あたり)
- 食塩摂取量
- 9.6g
- 高血圧有病者数
- 男性980万人、女性750万人
- 外来医療費
- 男性3,775億円、女性3,738億円
2040年
- 食塩含有量の多い食品
- 483品目
- 食塩摂取量の多い人
- 3万4,322人(40~79歳10万人あたり)
- 食塩摂取量
- 8.7g
- 高血圧有病者数
- 男性630万人、女性520万人
- 外来医療費
- 男性2,443億円、女性2,598億円
2012年から2040年の変化
- 食塩含有量の多い食品
- -46.3%
- 食塩摂取量の多い人
- -33.1%
- 食塩摂取量
- -13.9%
- 高血圧有病者数
- 男性-56.8%、女性-50.5%
- 外来医療費
- 男性-54.1%、女性-48.8%
減塩施策推進によるブースト効果
次に、食品の食塩含有量や食塩摂取量の多い人の減少速度が3倍に加速した場合の2040年の状況がシミュレーションされた。
食品の食塩含有量の減少が2040年まで3倍速で進行した場合
- 食塩含有量の多い食品
- 242品目〔ブースト効果-50.0%〕
- 食塩摂取量の多い人
- 3万793人(40~79歳10万人あたり)〔ブースト効果-10.3%〕
- 食塩摂取量
- 8.5g〔ブースト効果-3.2%〕
- 高血圧有病者数
- 男性630万人、女性520万人〔ブースト効果-0.3%、-1.0%〕
- 外来医療費
- 男性2,437億円、女性2,574億円〔ブースト効果-0.2%、-0.9%〕
食塩摂取量の多い人の減少が2040年まで3倍速で進行した場合
- 食塩含有量の多い食品
- 459品目〔ブースト効果-5.1%〕
- 食塩摂取量の多い人
- 1万6,652人(40~79歳10万人あたり)〔ブースト効果-51.5%〕
- 食塩摂取量
- 7.3g〔ブースト効果-16.2%〕
- 高血圧有病者数
- 男性620万人、女性490万人〔ブースト効果-1.7%、-6.6%〕
- 外来医療費
- 男性2,406億円、女性2,437億円〔ブースト効果-1.5%、-6.2%〕
食品の食塩含有量と食塩摂取量の多い人の減少がともに2040年まで3倍速で進行した場合
- 食塩含有量の多い食品
- 201品目〔ブースト効果-58.5%〕
- 食塩摂取量の多い人
- 1万639人(40~79歳10万人あたり)〔ブースト効果-69.0%〕
- 食塩摂取量
- 6.9g〔ブースト効果-21.7%〕
- 高血圧有病者数
- 男性620万人、女性480万人〔ブースト効果-2.3%、-8.8%〕
- 外来医療費
- 男性2,393億円、女性2,383億円〔ブースト効果-2.0%、-8.3%〕
心腎疾患も考慮するなら、さらに大きな医療経済的インパクトが期待される
上記のほか、都道府県別のデータに基づくシミュレーションも行われ、全国データのシミュレーションとほぼ同様の傾向が予測された。2012年の食塩摂取量は、沖縄県の8.3g/日から岩手県の11.7g/日の範囲に分布し、2040年にはそれぞれ6.9g/日、10.3g/日に低下すると予測された。
著者らは、高血圧に伴う心血管疾患・腎疾患等の医療費を考慮していないため、減塩施策の推進による医療費へのインパクトが過小評価されていることなどの留意点を挙げたうえで「食塩含有量の多い食品を46.3%削減し、食塩摂取量の多い人を33.1%減少させることで、平均摂取量は10.1g/日から8.7g/日へと13.9%減少するものと推計された。さらに、2040年までに食塩摂取量が6.9g/日へと減少した場合、高血圧の有病者数および外来医療費が男性ではそれぞれ2.3%および2.0%減少し、女性ではそれぞれ8.8%および8.3%減少するというブースト効果が見込まれる」と結論づけている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Impact of Salt Reduction on Medical Expenditure for Hypertension in Japan: National and Subnational Simulation Models」。〔Nutrients. 2026 Mar 16;18(6):933〕
原文はこちら(MDPI)







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