エリート女性トレイルランナーの血液検査値と骨代謝の関係 血清マグネシウムは骨量と負の相関
エリートレベルの女性トレイルランニング選手の血液検査値と、骨密度や骨塩量との関連を横断的に調査した結果が報告された。卵胞刺激ホルモンの保護的作用、カルシウムや甲状腺ホルモンの部位特異的な保護的作用が示唆されたという。また血清マグネシウムは意外なことに、各部位の骨密度や骨塩量と負の相関がみられ、著者らは慢性的なストレスによる骨からのミネラル動員の影響ではないかと考察している。

トレイルランニングの競技特異的な骨への負担
持久系アスリート、とくに女性持久系アスリートは、高度の代謝的要求によって内分泌環境(ホルモンバランス)や骨代謝に影響が現れることが少なくない。高い負荷の運動は一般的に、大腿骨頸部などの皮質骨が豊富な部位の骨形成を促進するとされているが、エネルギー需要が満たされていない場合やホルモンバランスが乱れている場合には、そのようなメリットが打ち消され、さらに骨脆弱性を来すことがある。
なかでもトレイルランニングは、下り坂を含む整地されていない自然環境での走行に伴い特定の部位に高負荷がかかり、部位特異的な変化が生じるリスクがあると考えられる。また、女性トレイルランナーは運動習慣のない一般女性よりは踵骨の骨密度が高いものの、他の持久系女性アスリートより低いという報告もある。とはいえ、女性トレイルランナーの骨の状態を血液バイオマーカーと関連づけて検討した研究はほとんどみられない。
これらを背景として、この論文の研究では、スペインのエリートレベルの女性トレイルランナーを対象に、血液検査値と骨関連指標との関連の横断的な解析が行われた。
国際レベルの女性トレイルランナー35人を対象とする横断的解析
この研究の対象は、スペイン登山スポーツ連盟の協力を得て募集された、同国の代表レベルのエリート女性トレイルランナー35人。適格条件として、国際大会での競技経験があり、前年のシーズンにおいて国際トレイルランニング協会(International Trail Running Association;ITRA)のパフォーマンス指数(ITRAスコア)が付与されているアスリートとされた。一方、体組成に影響を及ぼし得るサプリメントの利用者や、体内のインプラント留置、神経性食欲不振症の既往に該当する場合などは除外された。
主な特徴は、年齢33.7±7.5歳、BMI 19.9±1.3、競技歴7.91±5.2年、トレーニング量12.9±3.7時間/週、競技レベル(ITRAスコア)656.9±63.6(同スコア600以上は国際レベルと見なされる)であり、初経年齢は13.4±2.0歳だった。なお、13人に月経異常がみられ、10人は複合ホルモン避妊薬を使用しており、12人は同薬を使用せず正常月経だった。ただしこの3群間に血液検査値や骨指標に有意差はなかったことから、全体を一つのコホートとして解析された。
採血や骨密度等の測定は、プレシーズン中に48時間の運動禁止、8時間以上の絶食期間をおいて8~10時に行われた。正常月経者については卵胞期初期(月経後3~4日)のタイミングで行った。骨密度と骨塩量の評価には二重エネルギーX線吸収測定(dual-energy X-ray absorptiometry;DXA)法を用いて経験豊富な1人の研究者がすべて測定した。
血液検査データの傾向
血液検査では、尿素窒素(BUN)が全アスリートで基準範囲を逸脱して上昇していた。ただし、クレアチニンを含め、グルコース、ナトリウム、カリウム、塩化物、マグネシウム、カルシウムなどの他の生物学的指標の大半は基準範囲内だった。
内分泌プロファイルでは逸脱が広範囲にわたり、臨床的に有意な項目も認められた。ビタミンD低値が68.6%に認められ、最も一般的な不足状態であった。また、甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン〈T3〉)低下が48.6%、黄体形成ホルモン(LH)低下が28.6%に認められた。
肝酵素と代謝プロファイルでは97.1%で乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇、60.0%にクレアチンキナーゼ(CK)の上昇、40.0%に総コレステロールの上昇が認められた。その他の肝酵素マーカーは概ね基準範囲内にとどまっていた。
血球関連では好中球数低下が全員に認められた。また、31.4%でリンパ球数が高く、37.1%で単球数が増加していた。そのほかに、48.6%でフェリチン低値、28.6%でトランスフェリン低値、17.2%で血清鉄レベル低値が観察された。
全体として、代謝、ホルモン、および免疫プロファイルに特異的な逸脱が示された。
体組成および骨密度と骨塩量の傾向
体脂肪率は18.9±3.4%であり、内臓脂肪面積は3.0±3.9cm2とわずかだった。また全身の骨塩量は2,206.286±246.702g、骨密度は1.096±0.094だった。
骨減少症や骨粗鬆症に該当する割合:
骨密度のTスコアが-1.0~-2.5標準偏差であり臨床的に「骨減少症」と判定される選手の割合は、全身で評価した場合は5.7%だが、腰椎(L1~L4)の評価では48.6%に及んだ。また、大腿骨頸部では17.1%、全大腿骨では22.9%だった。
骨密度のTスコアが-2.5標準偏差以下であり臨床的に「骨粗鬆症」と判定される選手も、腰椎で評価した場合は11.4%存在した。その他の部位での評価で骨粗鬆症に該当する選手はいなかった。なお、骨塩量のZスコアで評価した場合も、腰椎の骨塩量が2.0標準偏差以下の選手が17.1%存在した。
血液検査データと骨塩量・骨密度の相関
血液検査データと骨塩量・骨密度の相関を検討すると、以下のように多くの有意な相関が認められた。
マグネシウムは、腰椎の骨塩量(r=-0.56、p=0.001)、骨密度(r=-0.57、p=0.001)と負の相関を示し、また体幹や全身の骨指標とも有意な負の相関を認めた。カルシウムは、腰椎の骨塩量(r=-0.40、p=0.02)のほか、体幹の骨密度、全身の骨塩量などと負の相関を示した。トリヨードサイロニン(T3)は、腰椎の骨密度(r=0.51、p=0.002)や骨塩量(r=0.40、p=0.02)のほか、体幹の骨指標とも有意に正相関した。
そのほか、BUNと大腿骨頸部骨塩量の正相関(r=0.36、p=0.03)、血糖値と大腿骨頸部骨塩量の負の相関(r=-0.38、p=0.03)なども認められた。
女性トレイルランナーの骨の健康状態のモニタリングには、腰椎での評価が重要か
次に、多変量解析にて、全身および部位別の骨指標に有意な関連のある血液検査データを抽出した。
腰椎
腰椎の骨指標と一貫した関連のある血液検査値として、マグネシウムが負の関連(骨塩量β=-0.52、骨密度β=-0.35)、卵胞刺激ホルモン(FSH)が正の関連(βが同順に0.29、0.53)が抽出された。有意に関連するその他の因子として、骨塩量についてはカルシウムが負の相関など、骨密度についてはT3と正の相関などがみられた。
大腿骨頸部
マグネシウムは一貫して負の関連因子として抽出された(骨塩量、骨密度ともにβ=-0.34)。FSHは骨塩量のみと正の関連、血糖値は骨塩量のみと負の関連があった。
体幹
マグネシウムは一貫して負の関連因子として抽出された(骨塩量β=-0.50、骨密度β=-0.44)。カルシウムは骨密度と負の関連、FSHは骨密度と性の関連があった。
全身
マグネシウムは一貫して負の関連因子として抽出された(骨塩量β=-0.37、骨密度β=-0.45)。また、カルシウムも同様に、骨塩量・骨密度ともに負の関連があった。反対にFSHは骨塩量・骨密度ともに正の関連があった。BUNは骨密度と正の関連があった。
マグネシウム、FSH、甲状腺ホルモンが重要な関連因子
著者らは本研究を「エリート女性トレイルランナーという特殊なサンプルにおいて、高強度持久力トレーニングによって生じる可能性のある血液学的および骨密度測定上の不均衡に関する新たな知見を提供する、初の研究である」としている。横断研究のため因果関係の推論が制限されること、サンプルサイズが小さいことなどを限界点として挙げたうえで、結論は以下のようにまとめられている。
「我々の研究結果は、骨格の健康状態における顕著な局所的差異を強調している。大腿骨領域などの荷重のかかる皮質部位は高強度トレーニングに対して耐性があるように見えるが、腰椎は著しい脆弱性が認められ、この集団における骨の健康状態をモニタリングするための重要な部位であることを示している。また、マグネシウム、FSH、甲状腺ホルモンが重要な関連因子として特定された。これらの知見は、骨格の完全性を維持するうえで、ミネラル恒常性とホルモンバランスの間に潜在的な相互関連性があることを示唆している」。
アスリートでは、血清ミネラルが正常であっても骨では枯渇していることがある
なお、論文の考察において著者らは、本研究で認められた血液検査値と骨指標の関連のメカニズムについて、「動的な骨代謝回転バイオマーカーをみていないため裏付けのない推測ではあるが」と断ったうえで、以下のようにまとめている。
まず、BUNが大腿骨頸部の骨塩量と正相関したことは、荷重のかかる部位でのコラーゲン合成を支えるタンパク質代謝の影響が考えられるという。血糖値と大腿骨頸部の骨指標との負の関連は、マトリクスの完全性を損なう終末糖化産物の影響に言及している。
マグネシウムが多くの骨指標と比較的大きな負の関連を示したことについては、慢性的な身体的ストレスまたはエネルギー不足の下では、骨格は細胞外マグネシウムレベルを維持するための動的な交換可能なプールとして機能し、運動誘発性のマグネシウム損失(発汗、腎排泄など)に応じて骨マトリクスから動員されている状態を見ているのではないと仮説を述べている。
これらの考察とともに、「アスリートでは、ミネラルなどの正常な血清レベルが栄養の適切さではなく、逆説的に骨のプールの枯渇を反映している可能性があることを強調している」と付け加えている。
なお、研究参加者全員にBUNの上昇がみられた点については、「トレーニング負荷とタンパク質ターンオーバーの加速を反映していると考えられる。この集団ではタンパク質が二次的なエネルギー源として利用されやすいこと、および、遠心性筋損傷により窒素性老廃物が増加する」と述べ、クレアチニンが正常であることなどから腎障害の可能性を否定している。
文献情報
原題のタイトルは、「Relationships Between Hematological Variables and Bone Metabolism in Elite Female Trail Runners」。〔Healthcare (Basel). 2026 Jan 13;14(2):200〕
原文はこちら(MDPI)







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