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「甘味」と「塩味」を感じる順番に個人差 味覚は脳内処理と共感性が影響している可能性 国立障害者リハビリテーションセンター

2026年04月18日

甘味と塩味を感じるタイミングの調整に個人差があることが報告された。国立障害者リハビリテーションセンターの研究グループの研究によるものであり、論文が「Scientific Reports」に掲載された。

「甘味」と「塩味」を感じる順番に個人差 味覚は脳内処理と共感性が影響している可能性

研究結果の概要:塩味と甘味が混ざった味の感じ方の個人差と発達特性の関係

自閉傾向が強い人は、混ざった味の食べ物を苦手と感じる傾向がある。国立障害者リハビリテーションセンター研究所は産業技術総合研究所と共同で、新たに開発した実験装置を用いて、味の感じ方について調査した。

実験では、参加者の舌先に砂糖水(甘味)と食塩水(塩味)を順々に呈示し、どのような順番で感じたか回答してもらった。刺激は「甘味→塩味」または「塩味→甘味」いずれかで呈示され、参加者は感じた順序をボタンで回答した。また、一部の実験では砂糖水と食塩水の混合液を呈示したが、そのことは参加者には伝えずに行った。

その結果、砂糖水と食塩水を順々に呈示した場合には、多くの参加者が味の順序を概ね正確に答えた。一方、混合液を呈示した場合の回答には、大きな個人差があった。

甘味と塩味は、それぞれ異なる受容体によって感知される。舌(末梢)にある味覚受容体の性質から、混合液の場合、本来は塩味が先に感知されると考えられる。しかし実際には、甘味を先に感じたと回答する参加者も多く、このことから、脳内で味の「到達時間」が調整されている可能性が示唆された。

解析の結果、共感化傾向※1の高い人は、混ざった味を「甘味が先」と感じやすいことがわかった。味覚受容体の性質から推測される順序(塩味→甘味)と異なる結果となったことから、共感性の高い人では、脳内における味覚情報の時間的な調整がより強く働くことが示唆された。

本研究では「混ざった味が苦手」という食行動と明確に結びつく味知覚の特徴は見つからなかったが、味知覚の特徴と自閉傾向に関連した性格特性が関係している可能性が示された。

※1 共感化傾向:他人の気持ちを汲み取ったり、共感したりすることを好む性格特性を指す。自閉傾向が高い人は、共感化傾向が低く、反対にシステマティックな理解を好む傾向が高いとされている。

研究の背景:混ざった味の感じ方と自閉傾向や食行動との関連を探る

自閉スペクトラム症※2の当事者は、苦手な食べ物が多く、食べられるものが限られているなど、食の困りごとが多いことが知られている。苦手な食べ物が多いことは、日常生活の中で献立選びが難しくなるだけでなく、食の偏りから低成長や生活習慣病へつながる可能性もある、医学的に重大な課題。以前に同センターの研究者らが実施したWEBアンケートでは、自閉傾向が高い人は、「甘じょっぱい」(甘味・塩味)といった混ざった味の食べ物を苦手と感じる傾向が明らかになっていた(DOI: 10.1002/erv.2931)。

※2 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;ASD):社会性やコミュニケーションの障害、行動の繰り返しや限られた興味を特徴とする発達障害の一つ。「感覚過敏※3」や「感覚鈍麻」など感覚の困りごとを有することが非常に多いことが知られている。
※3 感覚過敏:感覚の刺激を過剰に強く感じ、苦痛と感じるような状態。味覚・触覚(食感)・嗅覚などの感覚過敏により、食べられるものが限られているなどの食の困りごとが生じていると考えられている。

一方、味覚は味蕾※4にある味細胞※5の表面の味覚受容体により感知される。塩味はイオンチャネル共役型受容体※6により感知されるため応答が素早く、甘味は代謝型受容体※7で感知されるため高感度ながら応答がゆっくりであることが知られている。過去の研究でも脳活動において、塩味応答のほうが甘味応答に比べて0.1秒程度早いことが報告されている。

※4 味蕾(みらい):舌の表面にある茸状乳頭・有郭乳頭・葉状乳頭などに分布する味覚を感じるための小さな器官で、味物質を感知する味覚受容体を持った味細胞などからできている。
※5 味細胞:味蕾の中にある味物質を感知する味覚受容体を持った細胞。基本味(塩味・酸味・甘味・苦味・うま味)は、それぞれ別の味細胞によって感知されることが知られている。
※6 イオンチャネル共役型受容体:特定の物質が結合すると、受容体の中に内蔵されたイオンチャネルが開き、細胞の内外でイオンの流れが起きることで反応が生じる。受容体とイオンチャネルが一体化しているため素早い応答が特徴。塩味と酸味の感知にはこのタイプの受容体が使われていると考えられている。
※7 代謝型受容体:特定の物質が代謝型受容体に結合すると、Gタンパクの活性化などの細胞の中で反応が生じ、結果としてイオンチャネルが開いて応答が生じる。一つの受容体で多数のチャネルを開くことができるため一般に高感度だが、細胞内の酵素反応を経るため時間を要するのが特徴。甘味、苦味、うま味の検知にはこのタイプの受容体が使われていると考えられている。

このように、味覚受容の基本的なメカニズムは徐々に明らかになってきているものの、これまでのところ塩味と甘味の組み合わせのような、「混ざった味」がどのように感じられるかなど知覚に関する研究は少なく、それが自閉傾向や食行動とどのように関連しているのかはほとんど明らかになっていなかった。そこで今回、複数の味刺激を呈示することができる味覚刺激装置(図1)を新たに開発して、「混ざった味」(塩味と甘味)の感じ方について調査した。

図1 味覚刺激装置

味覚刺激装置

実験参加者には、孔のあいたチューブに舌先をあててもらい、そこに流れてくる味刺激(甘味・塩味)についてボタンで答えてもらった。チューブの中には、舌先で36℃程度になるように加温した脱イオン水が常に流されており、そこを気泡で区切られた味刺激の列が流れてくるようになっていた。どのタイミングで味刺激が届いたかについては、着色された味刺激の溶液(食塩水または砂糖水)を吸光度センサにより検出した(実際の味刺激は食紅によりすべて同じ赤に着色)。
(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)

研究の具体的内容と成果

(1)塩味と甘味のどちらかをあてる課題(味覚弁別課題)

定型発達の30名を対象に、まず、塩味と甘味のどちらが呈示されたのかを答えてもらう課題(味覚弁別課題)を行った。この課題では、塩味刺激または甘味刺激がランダムに呈示され、参加者には呈示された味刺激が、どちらであったかボタン押しで答えてもらった(図2)。

図2 塩味と甘味のどちらかをあてる課題(味覚弁別課題)

塩味と甘味のどちらかをあてる課題(味覚弁別課題)

この課題では、塩味刺激(食塩水)または甘味刺激(砂糖水)のどちらかが呈示される。刺激の長さは、およそ0.4秒(400ミリ秒)で、刺激がどちらの味かわかった場合には、速やかにボタン押しをする必要があった。予備実験により、食塩水(塩化ナトリウム水溶液)と砂糖水(スクロース水溶液)の濃度は、概ね同じくらいの濃度に感じられるように調整していた。なお、食塩水も砂糖水も実際には赤く着色されていた。図中の味刺激の後の薄い色は、各刺激の後、洗い流しのため少し着色が残っていたことを表している。
(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)

その結果、今回の実験条件では、塩味か甘味の区別は、正確に行えることがわかった(図3左)。従って、次に行った時間順序判断においても、主観的な味の感じやすさの差が順序判断に影響する可能性は低いと推測された。一方、正解だった時の反応時間を調べてみると、塩味刺激に対する応答は、甘味刺激に対する応答に比べて、少し早いことがわかった。この差は、統計的に意味のあるものだった。先行研究でも塩味応答は甘味応答に比べて早いことが知られており、今回の実験でも矛盾しない結果になった。

すなわち、味刺激がどちらであるかを当てるシンプルな課題では、反応時間は末梢の受容体の性質に依存することがわかった。

図3 味覚弁別課題の結果

味覚弁別課題の結果

左のグラフが正答率、右のグラフが、正解だった時の反応時間を表している。
(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)

(2)塩味と甘味の順序を答える課題(味覚時間順序判断課題)

実験参加者が、塩味刺激、甘味刺激を正確に区別できることを確認したうえで、次に味刺激の順序を答えてもらう課題を行った。この課題では、味刺激は「塩味→甘味」(塩味先条件)あるいは「甘味→塩味」(甘味先条件)の順で呈示された。加えて、3分の1の試行では、実際には塩味刺激(食塩水)と甘味刺激(砂糖水)が混ざった混合液(混合味条件)を呈示した(図4)。刺激条件はランダムに呈示(バイアスの影響を防ぐため6試行ごとの疑似ランダムで呈示)され、いずれの試行においても、実験参加者は、その順序をボタンで再現する必要があった。つまり、混合液条件では、二つの刺激の刺激時間差がゼロの時の応答を評価することができる。

図4 塩味と甘味の順序を答える課題(味覚時間順序判断課題)

塩味と甘味の順序を答える課題(味覚時間順序判断課題)

この課題では、塩味刺激(食塩水)または甘味刺激(砂糖水)が順番または同時に呈示される。刺激は、およそ0.4秒(400ミリ秒)で、間を隔てる気泡が0.1秒(100ミリ秒)であるため刺激の時間差はおよそ0.5秒(500ミリ秒)だった。一方、混合味条件では、塩味刺激と甘味刺激が混合されており、刺激はおよそ0.9秒(900ミリ秒)だった。実験参加者には、「塩味→甘味」または「甘味→塩味」のいずれかの順で回答するように伝えられており、ボタン押しで再現してもらった。
(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)

図5左のグラフの縦軸は「塩味が先と判断した割合」であり、全問正解の場合、塩味先条件では1、甘味先条件では0となる。従って、塩味先条件と甘味先条件においては、多くの実験参加者が、刺激の順序を概ね正確に答えられていたことがわかる。一方、混合液条件の応答は、平均すると概ねチャンスレベル(0.5;偶然の確立のこと)になったが、参加者ごとにみると、応答は大きく異なった。参加者によっては、混合液条件のほとんどの試行で「塩味が先」と回答している一方、ほとんどの試行で「甘味が先」と回答する参加者もいた。

図5 味覚時間順序判断課題の結果

味覚時間順序判断課題の結果

左のグラフは味覚時間順序判断での参加者の応答を表している。グラフの横軸は刺激の時間差で、プラスの場合は塩味が先に刺激されたことを示す。一方、縦軸は実験参加者が「塩味が先に来た」と回答した割合。つまり甘味先条件ではゼロ、塩味先条件では1が全問正解を表す。青色の太線が平均の結果を示し、グレーの線が各参加者の応答を示している。右のグラフは、混合液条件の時の応答について、塩味先条件・甘味先条件の時の応答も考慮に入れたうえで指標化したもの。縦軸のプラス方向は、混合液を「塩味が先」と回答しがちな傾向を示している。一方、横軸は、各参加者の共感化指数(EQ)の値を示している。
(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)

混合液条件における応答の違いを指標化したうえで、自閉傾向に関連した認知スタイル(自閉症スペクトラム指数AQ※8、共感化指数EQ※9、システム化指数SQ※10)との関連をみたところ、自閉傾向(AQで評価)と関連するかもしれないという先行研究からの予測とは異なり、共感化傾向(EQで評価)との明らかな関連が判明した(図5右)。すなわち、共感化傾向が高い人では、混合液を「甘味が先」と回答しがちな一方で、共感化傾向が低い人では、混合液を「塩味が先」と回答しがちなことが判明した。

※8 自閉症スペクトラム指数(Autism Spectrum Quotient;AQ):全体的な自閉傾向を評価するための質問紙検査。33点以上の場合は自閉スペクトラム症の可能性があると評価する。定型発達者の中での個人差が大きいのが特徴。
※9 共感化指数(Empathy Quotient;EQ):他人の気持ちを汲みとったり、共感したりすることを好む性格特性を反映している。AQスコア同様に質問紙により評価する。
※10 システム化指数(Systemizing Quotient;SQ):分析や探索に強い関心を示し、ルールに基づいたモノづくりや論理的な思考を好む認知スタイルを反映する。AQスコア、EQスコアと同様に質問紙で評価する。自閉スペクトラム症者ではSQスコア>EQスコアとなることが多いといわれている。

この結果に関して、「甘味に対する感受性が高い人は甘味を素早く感知している可能性」、すなわち塩味と甘味に対する感受性の違いが結果に影響を与えた可能性が考えられる。しかし、味覚弁別課題での反応時間からは、塩味の反応時間が平均して早いことが判明しており、シンプルな甘味感受性の個人差では説明が困難。むしろ二つの味が混在しているときには、同時性を調整するメカニズム(較正)が働いていて、それが共感化傾向の個人差と関連していたのではないかと考えられる。

(3)主観的な味の感じ方や食行動との関連

混合液条件における応答の違いについて、主観的な味の感じ方や食行動との関連についても調査した。その結果、主観的な味の感じ方に関する質問の中で、甘味に関して後味を長く感じがちな人(「甘味がずっと口の中で残るような気がする」と答えた人)は、むしろ混合液を「甘味が先」と回答する傾向が強いことがわかった。一方、食行動の特徴に関する質問との間に関して、多重比較を考慮した場合には、明らかに関連のある項目は見つからなかった。

結果の解釈と展望:食のノーマライゼーションにつながる成果

本研究から、共感化傾向が高い人は、甘味と塩味が混ざった場合には、甘味を先に感じやすく、共感化傾向が低い人は、反対に、塩味を先に感じやすいことが示された。なぜ同じ混合液に対して、このような感じ方の違いが生じるのかについて、研究グループは以下の仮説を述べている。

末梢レベル(図6上)では、イオンチャネル共役型受容体によって生じる塩味応答は、甘味応答に比べてより早く生じる。このことは、味覚弁別課題では、塩味応答の反応時間の方が早かったという今回の結果からも支持される。一方、視覚と聴覚では、到達時間差の調整が生じるように、味覚についても、脳の中(中枢;図6下)で時間的な調整が働く可能性が考えられる。なお、視聴覚で生じる時間的な調整は個人差が大きく、例えば自閉スペクトラム症の人では、条件によっては調整がほとんど生じないことも知られている。今回の実験で塩味と甘味の到達時間差の調整が生じない場合には、混合液は「塩味が先」と知覚されるはずと言える。実際、共感化傾向(EQスコア)が低い参加者では、このような結果が得られており、末梢の受容体特性に忠実な知覚が生じているものと考えられる。

図6 結果の解釈

結果の解釈

上の段は、感覚器レベル(末梢)での神経応答を概念的に表しており、下の段は、脳の中(中枢)での神経応答を概念的に表している。その結果生じると考えられる感じ方(知覚)を下に示す。
(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)

一方、反応のピークで時間的な調整が生じると考えると、本来、両者は同時に知覚されるはずで、その場合、混合液に対する応答はチャンスレベル(偶然の確立)となるはず。しかし、代謝型受容体によって感知される甘味応答では、間に酵素反応を介しているため、反応のバラツキ(分散)が大きい可能性がある。その場合、ピークが同時になるように調整後には、むしろ「甘味が先」という一見逆転した判断になると考えられる。今回、「甘味に関して後味を長く感じがち」と答えた人の方が、むしろ混合液を「甘味が先」と回答する傾向がみられたということも明らかになっており、この可能性を支持する結果と言える。

以上のように、本研究からは、混ざった味に対する味知覚の特徴と共感性との関連が示唆された。なぜ共感化傾向との関連がみられたのかを明らかにするのは、今後の課題だが、共感性に関わるとされる脳領域は島皮質とよばれる領域で、味知覚にも関わることも知られている(一次味覚野)。この重なりが今回観察されたような関連を生じさせたのかもしれない。

研究者らは、「今回、『混ざった味が苦手』といった食行動との関連は明確ではなかったものの、味知覚の特徴と自閉傾向に関連した認知スタイルが関係するかもしれないという知見を得ることができた。今後、今回の研究を通じて得たノウハウを生かして、食行動の背景にある味知覚との関係を明らかにし、食の困りごとに対する啓発や食のノーマライゼーションに貢献していきたいと考えている」としている。

関連情報

甘味と塩味を感じるタイミングの調整に個人差~発達特性に関連した共感化傾向との関連を確認~(国立障害者リハビリテーションセンター)

文献情報

原題のタイトルは、「Temporal calibration in taste temporal order judgment is associated with empathizing traits」。〔Sci Rep. 2026 Jan 10;16(1):5001〕
原文はこちら(Springer Nature)

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