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脳振盪既往のあるコリジョンスポーツ選手はwell-beingの一側面である人格的成長が低い? 既往のない選手、非アスリートとの比較

激しい身体接触を伴うコリジョンスポーツの男子大学生を対象とした研究から、脳振盪の既往がある選手では、既往のない選手に比べて、心理的well-beingの一側面である「人格的成長」と、他者への共感に関わる「共感的関心」のスコアが低いことが報告された。また、非アスリートとの比較では、人格的成長、共感的関心に加えて、協調性も低値だった。立命館大学総合科学技術研究機構の小楠龍之介氏らの研究であり、「BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation」に論文が掲載された。ただし、本研究は後ろ向き症例対照研究であり、脳振盪がこれらの心理的特性の変化を引き起こしたことを示すものではない。著者らは、脳振盪既往とwell-beingや対人・社会的機能との関連を明らかにするためには、今後、前向き研究による検証が必要としている。

脳振盪既往のあるコリジョンスポーツ選手はwell-beingの一側面である人格的成長が低い? 既往のない選手、非アスリートとの比較

スポーツ関連脳振盪では、心理・社会的側面への長期的影響も関心の対象に

ラグビーやアメリカンフットボールなどのコリジョンスポーツでは、トレーニングや試合中に高頻度で頭部への激しい衝撃を受ける機会が多い。スポーツ関連脳振盪は一般に軽度外傷性脳損傷(mild traumatic brain injury;mTBI)の一種とみなされている。単回の脳振盪では多くの選手が臨床的に回復する一方、複数回の脳振盪や反復する頭部衝撃による累積的影響については、さまざまな観点から研究が進められている。

そうした影響の一つとして注目されているのが、心理・社会的機能やwell-beingである。スポーツ関連脳振盪後には、気分の変化、意欲低下、社会的関係の困難などがみられることがあり、健康関連QOLやwell-beingに影響する可能性が指摘されている。大学フットボール選手を対象とした先行研究でも、脳振盪後の学業や競技活動上の困難が報告されている。

また、脳振盪後の回復や適応には、個人の性格特性が関連する可能性も示されている。例えば、性格特性は感情調整やメンタルヘルス上の援助希求行動などと関連することが報告されている。一方、脳振盪既往と性格特性との関係については、既存の性格特性が受傷リスクに関連するのか、受傷後に何らかの変化が生じるのかなど、不明な点が多い。

このように、スポーツ関連脳振盪と心理・社会的側面との関連が注目される一方で、コリジョンスポーツ選手を対象として、well-beingや性格特性を、脳振盪既往のない選手や非アスリートと直接比較した研究は限られている。そこで小楠氏らは、後ろ向き症例対照研究により、これらの関連を検討した。

脳振盪既往のある選手、既往のない選手、非アスリートの3群を比較

研究参加者は国内の男子大学生93人で、以下の3群に分類された。

脳振盪既往のあるコリジョンスポーツ選手(concussion-history athlete;CH-A)…22人:19.8±1.0歳
過去に診断された脳振盪の回数は1.5±1.1回で、直近の脳振盪から評価までの期間は298.5日(中央値)、受傷から競技復帰までの期間は14.0日(同)であった。

脳振盪既往のないコリジョンスポーツ選手(no-concussion-history athlete;non-CH-A)…33人:20.5±1.0歳

非アスリート(non-athlete;non-A)…38人:22.1±1.6歳

コリジョンスポーツ選手55人は、大学1部リーグに所属するアメリカンフットボールまたはラグビー選手だった。脳振盪既往群には、医療従事者によって過去に脳振盪と診断され、研究参加時点ですでに競技復帰プロトコルを完了している選手が含まれた。過去3カ月以内に脳振盪を経験した者や、中等度または重度TBIの既往がある者などは除外された。

参加者には、well-beingや性格・心理状態に関する質問票への回答を求めた。well-beingについては、人格的成長などの心理的well-being、肯定的・否定的感情、生活満足度を評価した。また、性格・対人特性については、協調性や誠実性などの基本的な性格特性、他者への共感性、自尊感情を評価した。また、一般的な心理的苦痛は心理的な不調の程度を評価する質問票(12-item General Health Questionnaire;GHQ-12)で評価した。これとは別に、研究室で認知機能検査も実施した。

脳振盪既往群では「人格的成長」と「共感的関心」が低値

3群間では年齢に有意差があり、非アスリート群は両アスリート群より高齢だった。また教育歴は、非アスリート群が脳振盪既往群より長かった。一方、軽度認知障害のスクリーニングに用いられるMontreal Cognitive Assessment日本語版(MoCA-J)の総合スコアには、3群間で有意差は認められなかった。

Well-beingの比較

Well-beingは、心理的well-being、感情的well-being、生活満足度の3つの側面から評価された。

年齢、および心理的な不調の程度を評価するGHQ-12のスコアを考慮して解析したところ、CH-Aの「人格的成長(personal growth)」のスコアは、脳振盪既往のない選手群および非アスリート群の双方より有意に低かった。一方、脳振盪既往のない選手群と非アスリート群との間には有意差がなかった。また、「肯定的感情(positive affect)」については、脳振盪既往のない選手群が非アスリート群より有意に高かった。ただし、脳振盪既往群と他の2群との間には有意差は認められなかった。したがって今回の結果は、脳振盪既往群でwell-being全般が低いことを示したものではなく、well-beingを構成する特定の側面、特に人格的成長に群間差が認められたと解釈する必要がある。

性格特性・対人的特性の比較

性格特性や対人的特性についても複数の尺度が用いられた。年齢とGHQ-12スコアを調整した解析では、脳振盪既往群の協調性(agreeableness)のスコアは、非アスリート群より有意に低かった。ただし、脳振盪既往のない選手群との間には有意差が認められなかった。したがって、協調性の差が脳振盪既往そのものによるものとは断定できない。

一方、共感的関心(empathic concern)については、脳振盪既往群が、脳振盪既往のない選手群および非アスリート群の双方より有意に低かった。共感的関心は、他者に対して温かさや思いやり、気遣いを感じる傾向を表す指標である。なお、脳振盪既往群の中で過去の脳振盪回数とwell-being・性格関連指標との関連も探索的に検討されたが、有意な関連は認められなかった。したがって、本研究から「脳振盪を繰り返すほどwell-beingや性格特性への影響が大きくなる」と結論づけることはできない。

因果関係を明らかにするには前向きコホート研究が必要

以上をまとめると、脳振盪の既往があるコリジョンスポーツ選手では、既往のない選手や非アスリートと比較して、心理的well-beingの一側面である人格的成長のスコアが低かった。また、共感的関心も他の2群より低かった。協調性については非アスリートより低値だったものの、脳振盪既往のない選手との差は有意ではなかった。

ただし著者らは、本研究が後ろ向き症例対照研究であるため、脳振盪が心理的well-beingや性格・対人的特性の変化を引き起こしたのか、それとも受傷前から存在していた心理・行動特性が脳振盪リスクと関連していたのかを区別できないことを重要な限界として挙げている。また、うつ症状や不安症状を個別に評価するスクリーニング尺度を用いていないこと、受傷時の重症度や症状、脳振盪後の介入・リハビリテーションに関する情報を収集していないことなども限界としている。

そのうえで、著者らは、脳振盪既往のあるコリジョンスポーツ選手では、well-beingの特定側面や対人関係に関わる心理的特徴が異なる可能性があり、今後は前向きコホート研究によって、脳振盪前後から競技復帰に至るまでwell-beingや性格関連特性を追跡する必要があるとしている。

文献情報

原典論文のタイトルは、「Association of concussion, well-being, and personality characteristics among collegiate athletes in collision sports」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2026 Jul 21〕
原文はこちら(Springer Nature)

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