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ジュースなど適度な果汁摂取が糖尿病予防につながる? 遺伝的リスクが高いほど効果が高い可能性 東京科学大学

2型糖尿病の遺伝的リスクが高い集団において、フルーツジュースを週1回以上飲む人は、糖尿病の発症リスクが最大46%低いという、東京科学大学の研究チームによる論文が「British Journal of Nutrition」に掲載され、プレスリリースが発表された。この知見は、東アジア人由来の約92万カ所の遺伝子多型(SNP)で構成されたポリジェニックリスクスコア(PRS)と食事調査を組み合わせ、遺伝子要因と栄養要因の相互作用を統計的に解析して得られた。遺伝的に糖尿病のリスクが高い人では、適度な果汁摂取が予防的に作用する可能性を示しており、著者らは、個別化された精密栄養指針の策定に貢献する知見と述べている。

研究の概要:フルーツジュースは糖尿病リスクを上げるのか?

東京科学大学の研究チームは、国内13の大学や病院が参加する大規模調査「J-MICC研究」※1に登録された1万3,769人分のデータを用いて、フルーツジュースを飲む頻度と2型糖尿病との関連を調べた。また、個人が生まれもつ糖尿病のなりやすさを数値化した「ポリジェニックリスクスコア(PRS)」※2の高低によって、結果にどのような違いがあるかも比較した。

※1 Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort(J-MICC)研究:全国約10万人を対象とする多施設共同コホート研究。
※2 ポリジェニックリスクスコア(PRS):多数の遺伝子多型情報を合算し遺伝的素因を数値化した指標。

分析の結果、遺伝的に糖尿病になりやすい上位2割の人たちでは、フルーツジュースをほとんど飲まない場合と比べて、週1回未満飲む人は糖尿病にかかっている割合が約2割低く、週1回以上飲む人では約半分に下がることがわかった。つまり、遺伝的リスクが高い人ほど、適度にジュースを飲むことで糖尿病にかかりにくくなるという段階的なパターンが見られた。一方で、遺伝的リスクが低いまたは中程度の人たちでは、ジュースの摂取頻度と糖尿病との明確な関連は確認できなかった。

この成果は、遺伝的背景に応じた個別の食事指導の重要性を示しており、将来の精密医療や精密栄養学の発展に貢献することが期待される。

研究の背景:生活習慣病リスクの検討には、遺伝的背景の考慮が欠かせない

2型糖尿病は、世界で5億人以上、日本でも成人の約8%が抱える深刻な疾患であり、遺伝的素因と生活習慣の双方が複雑に関与している。しかし、果汁(本研究では100%フルーツジュース)と2型糖尿病との「つながり」を調べた先行研究では結果がまちまちで、明確な指針は示されていなかった。

研究チームではこの課題を解決するため、全国13施設が参加する多施設共同コホート「J-MICC研究」のベースラインデータ1万3,769例を解析した。対象者一人ひとりについて、約92万カ所に及ぶ遺伝子多型を組み合わせてポリジェニックリスクスコア(PGS002379)を算出し、遺伝的な糖尿病リスクの高さに基づいて五つのグループに分類した。

研究の成果:遺伝的ハイリスク者ではフルーツジュースが糖尿病オッズ比低下に関連

解析では、年齢、性別、喫煙、運動などの影響を統計的に調整した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、果汁の摂取頻度と2型糖尿病の有病率との交互作用を検定した。

その結果、遺伝的リスクが最も高い上位20%の集団に限り、果汁の摂取量が多いほど糖尿病にかかりにくいという明確な用量反応パターンが観察された(図1)。

具体的には、果汁を週1回未満しか飲まない人のオッズ比は0.78(95%信頼区間0.65〜0.93)、週1回以上飲む人では0.54(0.30〜0.96)となり、1〜2杯/日飲む人が最も低い値(0.47)を示した。

図1 2型糖尿病リスクにおけるPRSとフルーツジュース摂取との関連

2型糖尿病リスクにおけるPRSとフルーツジュース摂取との関連

横軸は遺伝的な2型糖尿病のリスク、縦軸は2型糖尿病のオッズ比を示す。遺伝的なリスクの高い人は、フルーツジュースを週に1回以上摂取する(点線)と、摂取しない人(実線)に比べて、2型糖尿病のオッズ比が低いことがわかる。
(出典:東京科学大学)

一方、遺伝的リスクが低いまたは中程度の集団では、果汁の摂取と糖尿病との間に有意な関連は確認されなかった。交互作用項の検定結果は統計学的には有意でないものの(p=0.116)、高リスク群に限定した解析で逆向き効果が再現性高く示された点は注目に値する。

社会的インパクト:画一的な栄養指導の見直しを迫るエビデンス

本成果は、遺伝的に糖尿病を発症しやすい人に的を絞って食事介入を行う「精密栄養学」の実装可能性を高めるものと言える。

現在、「果汁は糖分が多いから控えるべき」と一律に語られることが少なくない。しかし本研究は、遺伝的リスクが高い層においては、適量の果汁摂取がむしろ予防的に働く可能性を示しており、画一的な制限を見直すための科学的根拠となる。

今後の展開:精密栄養ガイドラインの策定に向けて

研究チームでは、「今後は縦断的な追跡データを用いて、果汁の摂取が将来の糖尿病発症を実際に減らすかどうかを検証するとともに、果汁に含まれるポリフェノールなどの成分が糖代謝関連遺伝子とどのように機能的に連携するのかを分子レベルで解明していく。さらに、国際的なゲノム-栄養相互作用コンソーシアムを構築し、民族や食文化の違いを超えた比較研究を推進して、最終的には個人のポリジェニックリスクスコアに基づいた精密栄養ガイドラインを策定し、保健指導や食品産業におけるイノベーションへの活用を目指す」としている。

プレスリリース

フルーツジュースの適度な摂取が2型糖尿病リスクを軽減(東京科学大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Inverse association between fruit juice consumption and type 2 diabetes among individuals with high genetic risk on type 2 diabetes: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) study」。〔Br J Nutr. 2025 Jul 10:1-8〕
原文はこちら(Cambridge University Press)

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