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新型コロナウイルスで自粛中の食生活ガイド

自粛生活がもたらす健康リスクと睡眠・栄養の考え方

一般社団法人日本スポーツ栄養協会-SNDJ- 理事長
鈴木 志保子
2020年05月07日

新型コロナウイルスで自粛中の食生活ガイド

睡眠の質を高める。まずはそこからスタート!

自粛生活がもたらす健康リスクと睡眠・栄養の考え方

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、自宅待機や自粛生活が続いています。命を守るために必要なことですが、慣れない生活スタイルが続くと、栄養や生活リズムを大きく崩す危険性があります。運動不足やコミュニケーション不足による健康への影響も心配されています。また、自分もいつ感染するかわからないという不安を抱えて暮らすことは、メンタル面にも大きなストレスがかかります。

これまで毎日決まって行ってきた社会的活動が失われると、体内時計が乱れ、睡眠不足や食欲低下、活力の低下、うつ気分など心身の不調が現れやすくなります。反対に、「これまで同様の生活リズム」で過ごすことは、気分を安定させ体内時計を維持するのに役立ちます。

子どもたちは休校、大人はテレワークとなると、つい夜更かしをしたくもなるでしょう。それでも毎日同じ時間に起きて、同じ時間に眠るように心がけることが大切です。これまでの研究で、質のいい睡眠を取れている人は、栄養状態が良く、体力も高いことがわかっています。それほどに、「睡眠」は生命活動の根幹を成すものです。

そして、睡眠の質を守る第一歩は、朝ごはんを毎日同じ時間に食べること。世のお母さんたちも大変だと思いますが、これまでの朝食時間を守り、家族で朝ご飯を食べるようにしましょう。

朝食の効果は主に5つあります。

  1. 食べるという行為が、寝ている間下がった体温・脈拍を上昇させ、身体にスイッチを入れる
  2. 栄養素・エネルギーを補給する
  3. 大腸を刺激する(排便を促す)
  4. 午前中の体温を維持する
  5. 夜の睡眠の質を高める

繰り返しになりますが、特に⑤が生活リズムを保つ鍵となります。「その日の眠りは朝に決まる」といっても過言ではありません。バランスの良い食事を朝からしっかりと食べること。それが質のいい睡眠の確保につながります。

"動かないから食べない"は間違い。これまで同様に食べること。

自粛生活がもたらす健康リスクと睡眠・栄養の考え方

次に、しっかり食べて、生きるために必要なエネルギーと栄養素を不足させないことが重要です。自粛生活の影響で、「やることがなく、だらだら食べてしまう」「このまま食べ続けていたら、肥満になってしまうのでは?」と心配している人も多いようです。かといって「全然動いていないのだから、1食抜いたり、食事を思い切って減らしたり」と考えるのは大きな間違い。何もしていなくても、お腹は減ります。それは、活動量がぐんと減ってしまっても、生きるためにエネルギーと栄養素を身体が必要としているからです。むやみに食べる量を減らしてしまうと、筋肉が減ってしまったり、免疫機能を低下させたり、心身の不調につながってしまいます。

では、1日中じっとしていたとして、どれくらいのエネルギーが必要なのか確認してみましょう。

自分の「基礎代謝量」を知ろう

基礎代謝量は、私たちが生命維持に消費する必要最小限のエネルギーのことです。寝て全く動かないような状態にしていても、内臓を動かしたり体温を維持したりするために消費されます。

「1日の推定基礎代謝量」は、「基礎代謝基準値×体重」

という計算式で求めることができます。

基礎代謝基準値は、下記の表から自分の性別、年齢から出します。
40歳女性・体重60kgなら、21.9(基礎代謝基準値)×60なので、1,314kcal/日となります。

基礎代謝基準値(kcal/kg 体重/日)
年齢(歳)男 性女 性
1〜261.059.7
3〜554.852.2
6〜744.341.9
8〜940.838.3
10〜1137.434.8
12〜1431.029.6
15〜1727.025.3
18〜2923.722.1
30〜4922.521.9
50〜6421.820.7
65〜7421.620.7
75以上21.520.7

出典:厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020年版

そして、1日中、安静にしている時のエネルギー量を「安静時代謝量」と言います。

「1日の推定安静時代謝量」は、「基礎代謝量×1.2」

という計算式で求めることができます。

例えば、先ほどの40歳女性・体重60kgの方の基礎代謝量は1,314kcal/日でしたので
安静時代謝量は、1,314×1.2=1,576kal/日となります。

1日中、座っているだけで何もしないで過ごしたとしても、生きるためにエネルギーが1,600kcal程度、必要だということです。この安静時代謝量に、動いて使ったエネルギーを加算して、1日の消費エネルギー量になります。

動くことの例を挙げると、「食べる(消化・吸収の運動を含む)」「歩く」「身支度」「運動」「座る・立ち作業」テレビを見る」「本を読む」「ゲームをする」などなど、すべての行動にエネルギーを使っているので、それを加算することで、1日の消費エネルギー量となります。「興奮」など、心理的な影響によるエネルギー消費量の加算もあります。加算の量が多ければ、食べて補う量が多くなります。動いていないから、「0」という考えは成り立ちません

では、自分が動いた分のエネルギー消費量はどれくらいでしょうか? 
例えば、体重60kgの方が1時間歩行しても126kcalです。
(エネルギー消費量(kcal)=1.05kcal×(Mets・時)×体重(kg))
動いた分のエネルギーは、私たちが想像するほどは多くないことがわかります。

このように私たちの身体は、じっとこもっているだけの自粛生活であっても多くのエネルギーを使います。生きるのに必要なエネルギーと栄養素をしっかり確保しないといけません。

アスリートや運動量が多い人の基礎代謝量

なお、アスリートは筋肉量が多いので、基礎代謝量は異なる式で求めることがあります。

「除脂肪体重(kg)」×28.5(性別・年齢関係なく一律)
(参考:小清水孝子, 柳沢香絵, 樋口満. スポーツ選手の推定エネルギー必要量. トレーニング科学, 17: 245-250,  2005.)

例えば、体重60kg、体脂肪率15%の選手の場合、除脂肪体重(体重60kg―体脂肪量9kg)は51㎏なので、51kg×28.5=1,453kcal/日となります。

筋肉が多い人は基礎代謝量も多くなりますので、部活をしていたお子さんや、普段からスポーツをしていた人で、家の中で自主練している方は、食べる量を減らすというよりも、コントロールしなくてはいけません。これまで通り3食きちんと食べ、朝イチ(起床時)排尿後の体重計測を毎日行い、体重が増えるようであれば、食事量を少し減らしてみる。逆に痩せていくようなら、栄養状態が悪くなっているサインなので、食事量を全体的に増やしてみたりするとよいでしょう

まとめ:コロナ禍で健康リスクを減らす自己管理術

鈴木志保子
  • いつもと同じ生活リズムをキープしましょう
  • 1日3食、特に朝ごはんはしっかり食べましょう。朝ごはん抜きは厳禁!
  • 体重を毎朝測定し、増減がないかチェックしましょう
  • 仕事や学習、運動(自主練習)などの活動にあったバランスの良い食事をとりましょう

(取材・構成/及川 夕子)

連載「新型コロナウイルスで自粛中の食生活ガイド」目次

  1. 今こそスポーツ栄養で、負けないカラダをつくろう
  2. 自粛生活がもたらす健康リスクと睡眠・栄養の考え方
  3. バランスの良い食事とは?
  4. 感染症に負けない食事とは?【Q&A】
※以下、近日公開予定
  • 免疫力を下げないために―お金と手間をかけなくても必要な栄養をとる方法―
  • 休校・外出自粛でも、発育発達に影響をおよぼさない生活習慣と食生活

プロフィール

鈴木 志保子(すずき しほこ) 管理栄養士、公認スポーツ栄養士
一般社団法人日本スポーツ栄養協会理事長。公立大学法人神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授。
実践女子大学卒業後、同大学院修了。東海大学大学院医学研究科を修了し、博士(医学)を取得。2000年より国立鹿屋体育大学体育学部助教授、2003年より神奈川県立保健福祉大学栄養学科准教授を経て、2009年4月より現職。(公社)日本栄養士会副会長、NPO法人日本スポーツ栄養学会前会長、日本パラリンピック委員会女性スポーツ委員会委員、東京2020組織委員会飲食戦略検討委員など役職多数。
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